上京ライフ

北海道からの上京物語 “日本一バーテンダー”
小栗絵里加さん


就職や進学など、人生の節目に上京をする人は多いが、稼ぎたい、売れたい、有名になりたいなど一旗揚げようと東京へやってくる人もいるのではないだろうか。北海道出身、東京・赤坂のバー「Algernon Sinfonia(アルジャーノン シンフォニア)」メインバーテンダー兼マネージャーを務める小栗絵里加さんもその一人です。札幌での学生時代には芸能活動を経験し、短大を卒業した二十歳の時に「東京でどこまで通用するのか」と、一念発起し上京を決意。「結果を出すまでは帰らない」と決意し、恐怖体験も極貧生活も理不尽も乗り越えました。2010年にバーテンダーに転身し、2017年にはバーテンダーとして名誉あるカクテルコンペティション「なでしこカップ」で優勝。日本一のバーテンダーの称号を手にしました。そんな小栗さんの「上京ライフ」を伺いました。


アイドルとして売れたくて東京へ

小栗さんは札幌市のご出身ですが、上京した経緯から教えてください。
小栗さん(以下、敬称略):地元・札幌にいた短大時代に、芸能活動を少しさせていただいていたのですが、卒業後の進路について考えたときに、「今の自分が東京でどこまで通用するか試したい」と思ったことがきっかけで上京しました。

芸能活動はどういったことをしていましたか?
小栗:アイドルのお仕事が主でした。実は、私の母が幼少の頃に子役として活動していたこともあり、それに憧れて中学生のときにも少し活動していたんです。その後、短大時代になってバイオリニストとしてバンド活動をしていたのですが、私たちのライブを見ていた方からスカウトを受けたことがきっかけで再び芸能活動を始めました。当初は「エキストラの仕事からで良ければ」という感じで声をかけてもらい、お芝居など何でも挑戦したいと考えていたのでそのまま事務所に入らせていただくことにしたんです。なので短大時代は、学業と音楽活動、そしてアイドル活動を同時にしていましたね。

つまり、アイドルとして売れたかったから上京したという感じでしょうか?
小栗:そうですね。芸能関係のお仕事をしていて二十歳で上京するのは、一般的に見て遅すぎます。自分でもすごく厳しいことだと分かってはいたんですが、それでも行かないよりは行ってぶちのめされた方が納得できるだろうなと思っていました。でも、まったく当てはありませんでした(笑)。上京前に、キャンペーンガールのお仕事をさせていただいて、そのつながりで地元のCMに出させていただいたりして……。そのお仕事が東京でもできるという当てはあったにはあったんですが、ほとんどないようなもので。なので、東京でいろいろと揉まれましたね(苦笑)。

もともと上京したい気持ちはあったんですか?
小栗:東京と比べると札幌はやはり田舎なので、憧れはありました。母が東京出身ということもあって、話を聞いたり、東京にいる親戚の叔母さんの家に遊びに行ったりするたびに「やっぱり東京はいいな」って。でも、本格的に上京しようと思ったのは、大学2年生ぐらいの時ですね。


上京1年目、AKBへスカウト?

上京1年目はどんな生活を送っていましたか?
小栗:下北沢に住んでいて、アルバイトをめっちゃしていました。下北沢には芸能関係の人が多く住んでいる印象が強くて、そんなフワッとした理由から選びました。家賃は、1K6畳で8万5千円くらいと、今考えると高かったですね。東京の相場がわからなかったので、こんなもんなんだろうと思ってしまっていたんですけど(笑)。ちゃんと探せばもっと良い物件は絶対にあったと思います。しかもその部屋は、お化けが出るところで。霊感の強い友達からは「引っ越した方がいいよ」って。東京ってめっちゃ怖いなって思いました(笑)。

上京一発目に幽霊部屋ですか……。
小栗:それと、東京ガスを名乗る人が突然尋ねてきて、ガス漏れ警報器を買わされたこともありました。3万円もしたんです……。最後に引っ越しで退去するときに業者の人に何気なく聞いてみたら「そんな物は販売していませんよ」と言われてそこで気が付いたんです。詐欺ですよね……。家賃も高いし、幽霊も出るし、その上詐欺って(笑)。

散々でしたね……。お仕事の方はいかがでしたか?
小栗:ありがたいことに芸能の仕事はちらほらとやらせていただいておりまして、仕事がない日はとにかくバイト。ビストロで9時から14時まで働いて、15時から24時まではバー。そのバーなのですが、たまたまスカウトしていただいた事務所のタレントさんの卵が働く渋谷にあるバーで、急に仕事が入っても休めるようなお店でした。業界の方もお客さんとしていらっしゃるお店で「仕事をもらえるチャンスもあるだろう」と思って。そんな中、バーで働き始めて3カ月くらいが経った頃に、ある方から「AKBのオーディションがあるから受けてみなよ」って声を掛けていただいて。でも、お返事をするタイミングが遅くなってしまって「興味があります」って伝えたときには、1期生の募集が終わってしまっていたんです。とりあえず次のオーディションまでAKBカフェで働くという流れが上京1年目でしたね。当時は、夢見ながら働いてという感じで、まさに貧乏暇なしでした(笑)。

タレントの卵にありがちなお話ですね……。
小栗:ええ。売れていないタレントは、衣装やメイクも自分でしないといけなくて。お金がないからってみすぼらしくもできないし。だからお金を稼がなきゃって、バイトをしまくっていたんです。超きつかったです、本当に。でも、幸いなことに飲食店で働いていたので、賄い飯でつないでいくような状況でした。

ホームシックになったりはしませんでしたか?
小栗:私、暇さえあればとにかく働くタイプで、寝る時間を削ってでも働いていたので、寂しいとかも考える余裕がなかったんです。寂しがり屋の人は、めっちゃ働けば寂しくなくなりますよ(笑)! 実家にも特に連絡はしていませんでしたね。連絡したら「今すぐ帰って来い」って言われるだろうと思って、意地でも親には連絡しなかったです。

生活も厳しい中、それでも実家に戻ろうとしなかったんですね。
小栗:せっかく東京に出て来て「そんなのに負けてられるか」みたいな気持ちでした。今、帰ったら負け犬じゃないかって。結果を残さないと帰りたくないっていう思いがずっとあったんです。でもその後、AKBのオーデションに落ちてしまって、AKBカフェも辞めて。別の事務所に入って、毎週末は「一般人をスターにしよう」みたいなインターネットテレビの番組でレギュラーのような形の仕事をさせていただきながら、飲食店のアルバイトでしのぐみたいな日々でした。


理不尽なことは一回飲み込む!

上京後、友達作りなどはしていましたか?
小栗:私の場合は、周囲にすごく恵まれました。札幌時代の知り合いで、沖縄出身の友人がいたんですけど、同じ上京組で。連絡を取り合ってよく会ったりして。友達を紹介してくれたりしました。知り合っていく人の中では、同郷だと仲良くなりやすいですよね。同じ地元の人たちが集まって、みんな各々の友達を連れてきてという感じで輪が広がっていったりしました。

上京してから始めたことは何かありますか?
小栗:上京してからというよりも、バーテンダーをしてから始めたことになっちゃうんですけど、すごく勉強をするようになりました。バーテンダーは、最初ソムリエの先輩の紹介で働き始めたことがきっかけで、26歳の時に芸能活動を完全に辞めて、それからはずっとバーテンダーです。とにかく昔は本当に勉強が大嫌いだったんですが、自分が好きなことのためだったらいくらでも勉強できるなって、大人になって分かりました。

初めての仕事や、初めての職場も経験しているわけですよね。
小栗:そうですね。上京してからすぐや、仕事を始めて最初の頃は、理不尽に思うことや、仕事でいろいろなことを言われてしょぼんとすることも結構あると思うんです。でも、一回無理やり自分の中に吸収して、飲み込んで、後からでも納得できれば、それは自分が一歩成長できた証だと思います。納得できないのであれば、もちろん無理に納得する必要はないですけど。「嫌だ~!!」って思う人もいるかもしれないですけど、そこは柔らかく柔らかく……柔軟性を持つことは大事かなと思いますね。

それは小栗さんの経験則からですか?
小栗:ええ。アイドルをやっていたことがプラスになることもありましたけど、マイナスに出ることもありました。最近も「優勝できたのはアイドルやっていたからだろ」なんてひがみっぽいことを言われることもあります。そういうのは気にしないのが一番です。ただ、言われていることが正しい場合は飲み込まなきゃいけないけど、あまり気にし過ぎちゃうと疲れちゃうから、気にせず。そこの調整を上手くできると良いんじゃないかな。昔は私も生意気でしたけど(笑)。何か言われたら「何でですか?」みたいな強気な感じで返していましたけど、今、自分が後輩にいろいろと教える立場になって「あの時、あの先輩はこういうことを言いたかったのかな?」とか、後から分かってくるものですよね。

仮にストレスを抱えた場合の発散方法はありますか?
小栗:カラオケに行って演歌とかやたら古い歌を大声で歌います。大声で歌うと結構すっきりするんです。ストレス発散になりますよ。あとは、やっぱりお酒かな。お酒が好きだから今こうしてバーテンダーをやっているんだと思いますし!

最後に、これから上京してくる人へメッセージやアドバイスがあればお願いします!
小栗:まず、訪問販売にはくれぐれも気を付けてほしい(笑)。ちゃんとした業者の人か確認してから買ってくださいねと伝えたいですね。あとは……私も辛いことはたくさんあったけど、その分たくさん楽しいこともあります。東京に来たことによって、いろいろな人に出会う機会も増えて、自分の考え方や視野も広がると思いますし。

小栗さん、ありがとうございました!


<プロフィール>
小栗絵里加 おぐりえりか/1984年生まれ、北海道札幌市出身。
札幌大谷大学に通いながらアイドルとして活動し、卒業後に上京。スカウトされたことがきっかけで上京2年目に「AKBカフェ」で働く。2010年にバーテンダーに転身し、2017年にはバーテンダーとして名誉あるカクテルコンペティション「なでしこカップ」で優勝。

取材・構成=小山田滝音

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